ご主人様は彼女
彼女は今眠っている。石鹸の匂いが僕の好きな匂いだ。彼女に寄り添って、目を閉じると温かな日差しが僕を包み込んだ。
彼女と僕の出会いは偶然だった。僕はその頃、子猫だった。僕はいつも一人で寂しかったんだ。誰でもいいから僕と遊んでほしかった。僕は彼女を見つけたとき、走ってすり寄った。でも彼女は困った顔をして「エサはあげられないよ」そういった。ううん、僕はもうその辺の袋を荒らして食べ終わってるんだ。
僕はついていった。彼女はなんども振り返って僕を見た。彼女の足がどんどん速くなって行く。一生懸命走った。置いていかないで、お願いだから一緒に居て。
寂しくて仕方なかった。結局彼女はあきらめて、僕を部屋に入れてくれた。僕、ずっとここに居てもいいの? 僕はなんども彼女に視線で訴えたけれど伝わるわけなかった。
彼女は僕を優しそうな目で見た。きっと僕がお利口になればここに居れる。
僕は彼女の居ない間がどうしても苦手だった。テレビは消えているし、音楽もなってない。まるで独りだ。
彼女が帰ってくると、僕はうれしくなって玄関まで走った。その度に彼女は笑顔で僕の頭を撫でてくれた。
それが何日も続いた。
ある日、僕が予測できないことが起こった。僕は玄関で立ったままの彼女に何も言えなかった。言えるはずもなかった。
「なんで、なんでそんなに私を信じるの」
ねえ、なんでそんなことで泣いているの。笑顔になってよ。
「私に裏切られたらどうするのよ」
僕は初めて彼女のことがわからないことに気づいた。なんで僕を見て毎日笑うのか、どうしていつもその笑顔が寂しいのか。
僕は鳴いて、すり寄った。
ねえ、僕が人間だったらもっとずっと一緒に居られたのかな。
幾日が経って僕は大人になった。そして外への好奇心があった。窓を見ていると、彼女が気付いてこう言った。
「ねえ。君は外に行かないでね」
僕は少し残念だったけれど、素直に窓を見つけるだけになった。でも可哀そうに思ったのか彼女は窓を開けてくれた。僕は初めて外に出れた。
僕はおじいちゃんになった。彼女もまたより大人っぽくなった。僕はもう外に出ることはない。彼女の膝の上で僕は永遠の眠りについた。
これはノベルアップ+のサイトに雪之都鳥としてのっけている作品です
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